中国の最新法令情報や感染症の流行下での企業の生存と発展の道、企業解散の実務操作等について解説するニュースレターの日本語版をお届けいたします。
一、最新法律情報
1. 社会保険減免について
1.1 6月初め、深セン市は中小零細企業の基本養老保険、失業保険、労災保険の企業負担部分の免除政策の実施期限を2020年12月まで延長すると発表した。
1.2 2020年6月22日、人社部、財政部、税務総局等の3部門は正式な文書を発表。各省、自治区、直轄市及び新疆生産建設兵団は中小零細企業の社会保険3項目に対して、会社納付部分の免除政策を2020年12月末まで延長して実行するとした。
中国人弁護士による解説:各企業の担当者は上記の政策を適時確認し、関連規定に基づき手続きを行い、企業が新型コロナウイルスの流行期間を乗り切るために積極的に政策による支援を求めることをご提案する。
2. 家賃の引き下げについて
2019年9月9日、深セン市人民政府は『深セン市人民政府による産業用不動産賃貸価格の規範化のための若干の措置(試行)に関する通知』を発表した。深セン市人民政府の趣旨に基づき、宝安区、龍華区、龍崗区、光明区などの区政府部門は相次いで工業用不動産賃貸料の指導価格に関する文書を発表した。
中国人弁護士による解説:現在、深セン市の各区の不動産価格は非常に高く、また政府の公表する指導価格よりはるかに高い。今回深セン市政府と各区政府が打ち出した指導価格は国有企業、社区株式合作社が自ら所有または運営する産業用不動産などのその他各種産業用不動産の賃貸当事者に対し拘束力がある。光明区のある工業園の賃貸料の例:政府が発表した指導価格の一階の価格は31.9元/㎡、一階以外は24.7元/㎡、複合不動産は21.8元/㎡であるが、この不動産企業が賃借人に賃貸する全ての不動産の価格は28.5元/㎡で、政府の指導価格よりも遥かに高いため企業にとっての負担となっていた。企業は適時、関連政策に留意することで自身の権益を維持しコストダウンを図ることができる。
3. 2020年5月28日、第13期全国人民代表大会第3回会議は「中華人民共和国国民法典」(以下『民法典』)を採決し、2021年1月1日から施行する。
中国人弁護士による解説:『民法典』は全部で7編、各編は順次、総則、物権、契約、人格権、婚姻家庭、相続、権利侵害責任及び付則となっている。当弁護士チームは物権から、以下企業に関連する内容をハイライトとしてまとめた:
(1)土地経営権の物権化:『民法典』は土地請負経営権者が自主的に法律に基づいて貸与、出資或いはその他の方式で他人に土地経営権を移転することを決定できると規定している。この条項は農村の土地が全面的に市場に進出し、移転または担保を設定した融資を行うことによる堅実な権利の基礎と制度を提供している。
(2)担保物権の完備:『民法典』は担保の範囲を拡大し、海域使用権を担保の範囲に組み入れるとした。耕地使用権担保の禁止規定を削除し、土地経営権担保の制度の実施が有利になるようになる。売掛金を権利担保の範囲に組み入れ、企業は将来的に有償で担保を設定できるようになり、企業の融資に利便性を提供することになる。
『民法典』は抵当権設定者が抵当権財産を譲渡できることを明確に規定し、抵当権者の同意を得る必要がなく、また抵当権の遡及効果に関しても明らかにしている。もちろん『民法典』では当事者の意思を尊重して自主的に処理されるが、当事者が抵当権設定者に対して担保財産を譲渡することができるかどうかは別に約定することが可能であるため、実務上では注意が必要である。
『民法典』は動産抵当権の効力を制限し、動産を抵当とするものは、正常経営活動においてすでに合理的な代金を支払い、抵当財産を取得した買受人に対抗してはならないとしている。この規定は物権公信の原則と善意取得制度の精神を確実に貫徹し、日常取引の安全性を保障している。
4. 6月2日、深セン市人民代表大会常務委員会弁公庁は『深セン経済特区個人破産条例(意見募集)』(以下「意見募集」)を発表し、社会の各方面の意見を広く募集するとした。期限は2020年6月18日とする。
中国人弁護士による解説:「意見募集」及びその後正式に公布された「深セン経済特区個人破産条例」は深センが中国大陸初の個人破産制度を実施する都市となることを意味している。「意見募集」では、深セン経済特区に居住し、深センの社会保険に継続して加入し、加入期間が満3年の自然人は、経営、生活が原因で債務を返済するのに足りない或いは明らかに返済能力が足りない場合、破産清算または和解を行うことができるとしている。同時に、単独または共同で債務者に対して50万元以上の満期債権を持つ債権者は、人民法院に債務者への破産清算を行う申請を提出することができる。
個人破産法は起業に失敗し、巨額の債務を背負っている起業者に再建の機会を与えると同時に多くの起業者の後顧の憂いを取り除き、大衆の創業を奨励することになる。一方、債権者は裁判所に債権者の合法的権益を保護するために、債務者の破産・清算を要求することができる。債権者が注意する必要なのは、債権者が企業の大株主に連帯責任担保を負担するよう要求する場合、具体的な状況を総合的に考慮し、リスクを総合的に評価し、物権担保を重視し、個人保証を慎重に使用することである。
二、新型コロナウイルスの流行下での企業の生存と発展の道
前号のニュースレターのテーマは「新型コロナウイルスの流行下での企業の生存と発展の道」で、休暇、操業停止、減給、人員削減、税務計画、政府政策の活用、及び情勢の変化や不可抗力への柔軟な対応等の方面から企業の生存と発展について全面的な研究を行った。新型コロナウイルスの流行の影響を受けた企業は非常に多く、まだ多くの企業がその影響下から回復していないため、今回のニュースレターでも新型コロナウイルスの流行下における企業の生存と発展の道について研究を続け、企業のコスト削減と従業員の業務効率の向上、従業員の離職率の低下などの方面から深く探求する。
一、企業のコストを削減
(一)家賃を下げてコストを節約
光明区の例:光明区工業類産業用不動産市場の家賃指導価格に関する文書は各種類の産業用不動産賃貸当事者が賃貸契約を新たに締結または更新する際の賃貸価格の指導を提供し、企業の経済用不動産コストを確実に低減するサポートしている。今月、当弁護士チームは光明区のある台湾系企業の委託を受け、賃貸人と企業の家賃の減額に関しての話し合いを行った。本件の委託を受けた後、当弁護士チームは光明区工業類産業用不動産市場の家賃指導価格に関する書類に基づき、慎重に交渉戦略を準備し、賃貸側との交渉を通じて当該企業の家賃を23万元近く節約することに成功した。
(二)電気代を節約しコストを削減
多くの製造業企業が生産過程において大量の電気を必要とするため、電気料金は毎月の支出において大きな比重を占めている。また電力送配電会社が提供する販売価格は非常に高い。企業が広東省電力利用者の参入許可条件と深セン市工信部門の参入許可要求を満たす場合、電気販売会社が代理で電力市場の取引に参与することができる。電気販売会社は大型電気発電所の価格が比較的低い時間帯の電気を買うことにより企業の電気料金の削減をすることが可能となる。決済した電気料金の価格から収益を得ることとなる。企業と電気販売会社の双方が協議によって定めた比率によりこの価格差収益を享受する仕組みである。企業の当期決算の電気量と申告の電気量が一致しない場合は、電気販売会社が統一的にバランスを取ることが可能。この取引モデルで企業の電気料金は電気販売会社には支払われず電力送配電会社に支払われることになる。
参考事例:以下の表にある某企業の電気料金通知書は電気料金の削減の例を示している。
備考:上記の図からわかるように、電気販売会社が代理で広東省電力市場化取引に参加し、価格が比較的低い期間の電気を購入すると、2016年11月21日~2016年12月19日に同社に304721.114元の電気料金を節約できる。当弁護士チームと電力販売会社は長期的な友好関係を築いているため、必要に応じて優良品質の販売会社を紹介することができる。
(三)合理的な半操業停止によりコストを削減
最近、当弁護士チームは「一部の従業員を休業にしたい」、「どのような方法を採用すれば法律責任を負うことなく対応できるかどうか」などのお問合せを多く受けている。前号のニュースレターでは、当弁護士チームは企業に対して、休暇、操業停止、減給または人員削減措置を採用する際に注意すべきリスクに関する情報をお知らせした。前号のニュースレターでも警告したとおり操業停止は従業員にとって深刻な問題になるため、企業が操業停止を決定する場合は直ちに従業員に知らせるべきである。しかし、従業員の中には企業側が一方的に操業停止し、一方的に契約を変更して労働関係の解除を迫られたと主張する社員が出てくる可能性がある。そのため、企業が一部の従業員に対して休業、操業停止を行う場合、以下の点への注意が必要となる:
1.企業が1つの部門の特定の1人のみまたは数人のみの従業員に対して操業停止を行う場合、ある特定の労働者に対して労働契約の約定に従って労働条件を提供していないと認定される可能性が高い。
2. 企業が経営難のため、一部の従業員を休暇にする必要がある場合、集中的にある部門またはある生産ラインの同じ性質の従業員に対して集団生産停止または交替で生産停止を行うことを提案する。従業員代表大会がある場合、生産停止事項を従業員代表大会に提出して討論し、従業員と協議による合意を得た後に履行しなければならない。
3.総合的に一年間の休日を調整する。企業と従業員が協議による一致をし、休暇を調整する場合、年休調整機関は、正常の勤務時間に基づき給料を支払う。年度内の休日を調整する場合、企業の流動資金を考慮して、休暇の調整後の出勤を待って給料の支払いをすることができる。
4.操業停止が1賃金支払周期内(通常は1ヶ月)の場合、労働契約の約定に従い賃金を支払う。
5.操業停止が1賃金支払周期(通常は1ヶ月)を超え、且つ従業員に仕事を手配していない場合、深セン企業は深セン市最低賃金基準の2200元/月の80%を従業員の生活費として支払い、企業が操業再開または従業員と労働関係を解除するまで支給しなければならない。
(四)輸入割引政策を活用し企業のコストを節約
先進設備と技術、重要部品を輸入する企業は、『財政部、商務部の2019年度対外経済貿易発展特別資金に関する重点業務に関する通知』及び発展改革委員会、財政部、商務部が発表した『輸入奨励技術と製品の目録(2016年版)』の規定に基づき、利息元金に利息率を乗じた計算基準によって、最高で6000万元の人民元利息付資金が得られる。
最近本弁護士チームは深セン市の関連部門にコミュニケーションを取っており2020年の輸入設備と技術、中核部品の利息申請はまだ始まっていないが、2020年の申請は7月中旬ごろから始まると見込んでいる。申し込み期間は通常短く、2020年の申請条件も変動する可能性があるため、本弁護士チームは引き続き最新の情報に注意し関連する情報適時公開予定である。
二、ライフプランの制定をサポートし企業への満足度を高める
感染症の流行下で、企業と従業員は大きな挑戦に直面している。企業の注文が減少することに伴い従業員の残業が大幅に減少し賃金が減少し、多くの企業の従業員はリストラされ、操業停止されるリスクに直面している。こうしたリスクを感じている従業員も中には存在するが、多くの従業員は企業に対する満足度が低く、帰属感も低い。こうした背景から、多くの従業員の業務に対する集中力が散漫で、効率も低く、離職率が高いという状況が日系の企業でも多く見られている。
某日系企業は離職率の問題や人事管理に関する問題を解決するため、従業員ライフプランのサポートのプロジェクトを展開することとなった。車弁護士を含めた当弁護士チームが社員一人一人と面談を行い従業員にライフプランとは何か、ライフプランの必要性等の話をし、ライフプラン設計のサポートを行う。また従業員との面談や従業員が実際に記入をしたライフプランから従業員の企業に対する満足度やその満足度を決定する要素や要求を理解する。そこから得られた分析結果に基づき弊社から某日系企業に対し管理の面での改善の提案を行うというプロジェクトである。最終的にはこうした従業員の会社に対する満足度を高め、業務の効率アップや離職率を下げる目的がある。同時に企業は従業員にライフプランという概念を認識させ個人のライフプランを制定することをサポートすることにより、従業員の個人の価値を高め、企業に対する帰属感も高め、企業と従業員のWin Winの関係を実現を目指す。
備考:このプロジェクトは長期的に持続的に行う必要があり、一定の期間毎に従業員と面談を行いライフプランの実現の状況をフォローアップし、従業員へのアドバイスを行う必要がある。外部の第三者に委託することで従業員は会社との利害関係にとらわれない考え方でライフプランの設定を行うことが可能になる。
三、車弁護士コラム——企業解散の実務操作
今回のコラムでは、感染症流行下の企業解散の実務操作と、企業解散に際して注意すべきリスクを研究し、検討していく。車衛東弁護士は、企業解散前の準備作業の経験を総括することによって、次のような注意点を提示している:
(一)総合的に要因を考慮する
企業が解散を決定するには、自社の経営状況、取引先との提携状況、社員への給与の支給及び社会保険積立金の購入状況など、多方面の要因を総合的に考慮し、企業のその後の発展状況を見て会社を直接抹消するか、それとも抹消後に他の地域で新たな会社を設立するかなどである。他の地域に移転する場合は、転入先の政策をしっかりと研究し転入の判断をする必要がある。
(二)慎重に抹消方法を選択する
現在、多くの外資企業は一般抹消方式を採用しているが、一定の条件を満たす場合簡易抹消方法を採用することが可能である。一般抹消と簡易抹消の違いは以下の通り:
簡易抹消は一般的な抹消と比較し、以下の手順を簡略化している:商事登記機関は企業に清算人の登録と清算報告書の提出を要求しない。企業は新聞に抹消公告を発表する必要がなく、資料を提出した後商事登録機関を通じて商事主体登録及び許可承認信用情報公示プラットフォーム(以下、「信用情報公示プラットフォーム」)を通じて無料で抹消公告を発表し、公告期限は20日間である。公告期間満了後、企業は深セン市市場監督管理局の支局(企業登録時の工商登記部門)に抹消申請を提出することができる。
しかし、すべての外商投資有限責任会社が簡易抹消できるわけではない。簡易抹消申請は以下の条件を満たす必要がある:1、登記抹消を申請する前に債権債務が発生していない/債権債務が清算済みである。2、未清算の清算費用がない、従業員給与、社会保険費用、法定補償金と未納の税金及びその他完了していない事務が存在せず、清算作業が全て完了している。3、登録抹消申請時に以下の状況が存在しない:国家が規定する参入特別管理措置に係わる外商投資企業。企業経営の異常名簿またはは重大な違法信用喪失企業リストに登録されている。持分(投資権益)に凍結もしくは動産への抵当などの状況が存在する。立件調査中、行政の強制措置、司法協力、行政処罰が課されるなどの状況がある場合。企業の所属する非法人分支機構が抹消登記をしていない場合、かつて簡易抹消手順を終了させられた場合。法律、行政法規或いは国務院が決定した規定で登録抹消前に批准を経る必要がある場合。簡易抹消が適用されないその他の状況がある企業。
そのため、企業は本企業の具体的な状況に基づき、解散を決定する時には多方面の要素を総合的に考慮して、慎重に抹消方式を選ぶ必要がある。
次回のコラムでは、新型コロナウイルス流行下での企業解散の実務操作及び企業解散に際しての注意点を深く検討していきますので、引き続きご注目ください。
Comments