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【車衛東弁護士チームニュースレター】2021年10月分(第十六号)

中国の最新法令情報や車衛東弁護士チームが担当した案件を通して企業のコンプライアンス管理等について解説するニュースレターの日本語版をお届けいたします。


一、最新法律情報


1. 2021年8月26日、広東省高級人民法院は『広東省における2021年度の人身損害賠償の計算基準』の発行に関する通知をし、広東省内の人身損害賠償の金額について、公布日から当該の基準が適用されます。

中国人弁護士による解説

 『広東省における2021年度の人身損害賠償の計算基準』によれば、2020年の深センの都市部住民一人当たりの可処分所得は64878元で、2019年の62522元と比較して、深センの都市部住民一人当たりの可処分所得は2356元増加しました。2020年の深センの都市部住民一人当たりの生活消費支出は40581元で、2019年の43113元と比較して、深センの都市部住民一人当たりの生活消費支出は2532元減少しました。このため、『広東省における2021年度の人身損害賠償の計算基準』に基づき、後遺障害賠償金、死亡賠償金を計算する際、賠償金額は増加し、また、被扶養者の生活費を計算する際の金額は減少します。

このほか、2021年8月26日までの本年度、既に審理が終了して判決が下された一審、二審の案件に対し、もし2020年の計算基準が適用されている場合、二審または再審ではこれ以上の調整は行わず、引き続き2020年の計算基準が適用されます。


2.2021年7月、深セン市第七期人民代表大会常務委員会第二回会議において『深セン経済特区における社会養老保険に関する条例』(以下略称『条例』といいます)が改正・採択され、当該の条例は2021年8月1日から施行されます。

中国人弁護士による解説

 当弁護士チームは既に第十四号のニュースレター内で『条例』について解説していますが、注意すべき点は、『条例』第三十条が「当市の基本養老保険に加入している保険加入者または退職者が病気または業務以外の原因で死亡した場合、その遺族は規定に基づき葬儀補助金と弔慰金を受け取ることができる。葬儀補助金と弔慰金は基本養老保険の統一積立金から支払われる」と規定しており、改正前の『条例』と比べると、今回の改正は業務以外の原因で死亡した場合の待遇において、保険加入者または退職者の深セン市における基本養老保険の実際の納付年数が累計満6か月でなければいけないという制限を取り消したという点です。

 当弁護士チームが深セン市の社保局に確認した結果、現在、業務以外の原因で死亡した場合の待遇において、既に深セン市の基本養老保険に参加してから実際の納付年数が累計満6か月でなければいけないという制限は取り消されており、深セン市の基本養老保険の保険加入者または退職者でさえあれば葬儀補助金と弔慰金を受け取ることができます。

3.此の程、深セン市検察院、深セン市司法局等の9部門が合同で『企業コンプライアンスの第三者委員名簿データベース管理に関する暫定施行弁法』(以下略称『暫定施行弁法』といいます)を公布しました。

弁護士解説

『暫定施行弁法』では深セン市の企業コンプライアンスの第三者委員による評価システムをより健全化し、第三者委員の選任と管理に基準を設けることを「深センモデル」の企業コンプライアンスにおける重要なポイントとしています。『暫定施行弁法』の主な内容は以下のとおりです。

3.1第三者委員の範囲を確定しました。『暫定施行弁法』第一条において、第三者委員とは第三者システム管理委員会の監督指導の下、一定の手順を経て選出され、案件に関与する企業コンプライアンスの監督・考察に参与し、また、監督・考察結果を評価する専門機関を指す、と規定されています、

3.2日常的な管理を行う機関を確定しました。『暫定施行弁法』は名簿データベースの日常的な管理について、市の司法局が担当することを打ち出しています。管理内容は第三者委員選任の公告の公布、選任予定者の名簿の確定、社会への公示、審査・考察と研修・査定、具体的な案件における実情に基づいた名簿データベース内の分類からの無作為抽出と確定、確定した計画に応じて第三者委員に費用を支払うよう銀行に対し指令を下すこと等を含みます。

3.3管理委員会に関連する職責を明確にしました。『暫定施行弁法』第六条は第三者委員の名簿を第三者システム管理委員会によって確定するよう規定しています。必要に応じ、管理委員会は会員組織が所属または主管している関連の協会・商工会議所を通じて会員候補者に関する状況を確認することができます。それから、入会資格について異議がある場合、市の司法局が調査・確認した後、第三者システム管理委員会が最終的な決定を下します。このほか、『暫定施行弁法』の解釈については第三者システム管理員会が責任を負います。

3.4データベースに組み込まれる基準及び任命期限を明確にしました。『暫定施行弁法』第四条、第十二条は第三者委員のデータベースに組み込まれる基準と第三者委員の作業部会に関する条件を規定し、そこには就業年数、知識・技能と関連する資格等が含まれ、そのうち専門スタッフの基準は機関の基準に属し、同時に前述の規定にも適合していなければいけません。『暫定施行弁法』第九条は名簿データベースのメンバーの任命期限は、一般的に5年を超えないものと規定しています。


4.2021年9月6日、工業情報化部中小企業局は『中小企業への支払い保障に関する苦情処理弁法(暫定施行)』(意見募集稿)(以下略称『弁法』といいます)を起草し、9月6日から公開で意見を募集しており、意見のフィードバック期間は2021年10月5日までです。

中国人弁護士による解説

 『弁法』制定の目的は組織、事業単位や大型企業が遅滞なく中小企業に金銭を支払うことを促し、苦情の受理、処理の手順をルール化し、中小企業の合法的権益を守ることです。『弁法』の主な内容は以下のとおりです。

4.1適用範囲。『弁法』は中小企業が組織、事業単位や大型企業が契約の約定に違反して商品、事業、サービスへの支払いを拒否または遅延させたとして苦情を申し立て、省レベル以上の人民政府の中小企業の業務促進を総合的に管理する部門が苦情を受理し、関連部門、地方人民政府が苦情を処理する際に適用されます。

中小企業とは、中華人民共和国国内で法に基づき設立され、国務院の承認した『中小企業分類基準規定』に基づき確定された中型企業、小型企業と零細企業を指します。大型企業とは中小企業以外の企業を指します。

4.2苦情の受付経路。『弁法』第四条は、苦情の受付経路にインターネット上のプラットフォーム、電話、ファックス、信書等の適切な方法を含めることができると規定しています。

4.3苦情に関する資料。苦情の申立人は要求に応じて苦情に関する資料を提出しなければならず、また、法定代表者または主要責任者の署名と公印の押印がなければいけません。苦情に関する資料は以下を含んでいなければいけません。(一)苦情の申立人の名称、統一社会信用コード、企業の営業許可証をスキャンしたもの(コピー)、企業の規模・分類、担当者及び連絡先電話番号、連絡先住所(二)苦情対象者の名称、統一社会信用コード、事業者分類、企業の規模・分類、登記住所地、担当者及び連絡先電話番号(三)具体的な苦情の申し立て内容及び関連する事実、証拠資料(四)苦情申し立て事項が人民法院、仲裁機関、その他行政管理部門または業界団体等の社会調停機関に受理または処理されていないことを保証するもの。『弁法』第八条は7種類の不受理事由を規定しています。

4.4企業が苦情を受けた場合の悪影響。『弁法』第十五条は苦情を受理した部門が、一般市民からの反響が大きい典型的な滞納事例については公開することができると規定しています。調査、確認を経て、法に基づき組織、事業単位や大型企業が遅滞なく中小企業に金銭を支払う義務を履行せず、状況が深刻であると認定された場合、苦情を受理した部門は法律法規に基づきその違約情報を全国信用情報共有プラットフォームに登録することができ、また、企業に関連する情報は「信用中国」のサイトと企業の信用情報公示システムを通じて社会に公示され、法に基づき違約に対する懲罰が実施されます。もし苦情を受けた企業に『中小企業への支払い保障条例』への違反が見られた場合、関連部門が法律法規に基づき処分します。


5.電力資源の配分の最適化を誘導する面において、電気料金に関する政策による作用を十分に発揮するため、2021年8月31日、広東省発展改革委員会は『より万全な我が省のピーク・バレー時間帯別電気料金政策に関連する問題に関する通知』(以下略称『通知』といいます)を公布し、2021年10月1日から発効します。

中国人弁護士による解説

5.1現行のピーク・バレー時間帯別電気料金政策を改善します。

5.1.1『通知』は広東省のピーク・バレー時間帯別電気料金政策の実施範囲を変更しないことを規定しており、即ち大規模な工業用電力利用者、一般的な工業用電力専用の変圧器の利用者を含んでおり、国や省が一部の利用者に実施しているピーク・バレー時間帯別電気料金政策に特別な規定がある場合はその規定に従います。家庭用電力利用者のピーク・バレー時間帯別電気料金政策はこの通知の規定に応じて調整され、家庭用電力利用者はピーク・バレー時間帯別電気料金政策を適用するかどうかを自ら選択することができます。次の段階では、状況を見てピーク・バレー時間帯別電気料金政策をその他の商工業用電力利用者まで拡大します。

5.1.2『通知』は、広東省が統一してピーク・バレー時間帯別電気料金の時間帯の区分を決めており、ピークの時間帯を10-12時、14-19時、利用量の少ない時間帯を0-8時、その他の時間帯を通常としていることを明確にしています。『通知』は、ピーク・バレー間の価格差を広げなければならない、と提起しています。発展改革委員会の「ピーク・バレー電気料金の価格差は原則として4:1を下回らない」という要求に基づき、広東省の電力システムにおけるピーク時と利用量の少ない時間帯の間の差が比較的大きい状況を踏まえ、広東省のピーク時、利用量の少ない時間帯、通常時の価格比率を従来の1.65:1:0.5から1.7:1:0.38に調整し、ピーク時と利用量の少ない時間帯の間の電気料金の価格差は4.5:1に達します。

5.2特別ピーク時電気料金政策を実施します。

5.2.1特別ピーク時電気料金の実施範囲と上述のピーク・バレー時間帯別電気料金政策は一致しており、即ち大規模な工業用電力利用者、一般的な工業用電力専用の変圧器利用者を含んでいますが、家庭用電力利用者は含まれません。

5.2.2特別ピーク時電力料金の実施期間は7月、8月と9月の3か月間全て、及びその他の月のうち1日の最高気温が35度以上に達した高温の日です。1日の最高気温は中央電視台の毎晩19時のニュース放送番組の天気予報内で発表される広州の翌日の最高気温に準じ、翌日実施されます。特別ピーク時電力料金の毎日の実施時間帯は11-12時、15-17時の合計3時間です。

5.2.3特別ピーク時電力料金は上述のピーク・バレー時間帯別電気料金のピーク時の電気料金をベースとして25%上がります。

注意が必要な点として、『通知』は最後に深セン市のピーク・バレー時間帯別電気料金政策は別途制定・公布すると規定しており、今後深セン市が関連するピーク・バレー時間帯別電気料金政策を実施した場合、当弁護士チームは速やかに情報を更新いたします。引き続きご注目ください。


6.2021年8月18日、深セン市中級人民法院は深セン市市場監督管理局、深セン市破産事務管理書と共同で『破産情報の共有と状況公示システム構築の実施に関する意見』(以下略称『意見』といいます)を発行しました。

中国人弁護士による解説

 深センは全国初となる破産情報公開公示システムを率先して構築し、これは破産処理の公開性・透明性の促進、社会による監督の強化、債権者の悪意ある債務逃れの防止、関連主体が誠実で信義を重んじるよう誘導すること、破産処理の質と効率の向上に役立ちます。また同時に金融機関により科学的かつ現代的な制度を確立させ、金融リスクを防止・除去し、社会信用システムをより改善させ、法の支配の下でのビジネス環境を向上させます。

『意見』は、関連組織が「全国企業破産更生案件情報ネットワーク」「深セン市個人破産情報公開プラットフォーム」「深セン個人破産案件情報ネットワーク」「深セン信用ネットワーク」等の複数のプラットフォームを通じ、連動して企業、個人の破産状況を公示し、一般人が照会できるよう情報提供することを求めています。もし債務者、破産管財人が財産の譲渡、破産詐欺、架空債務等、破産手続きを著しく阻害する背信行為により、人民法院からの処罰を受けたり、或いは免責決定が法に基づき取り消されたりした場合、関連する情報はその決定が下された日から3年間公示されます。

 企業、個人の破産状況を連動して公示するシステムの構築は、監督するためのルートを拡大し、債権者、社会の一般大衆等の各方面が協力し、全面的かつ全てのプロセスにおける債務者、破産管財人の監督管理を強化するために十分に活用されます。このため、当弁護士チームは、企業または個人が他の個人または企業と取引や経済活動を行う際、まず「全国企業破産更生案件情報ネットワーク」「深セン市個人破産情報公開プラットフォーム」「深セン個人破産案件情報ネットワーク」「深セン信用ネットワーク」等のプラットフォームを通じて相手が破産状態にあるかどうか、背信行為を行ったことがあるかどうかを確認し、これにより関連するリスクを回避するようお勧めいたします。


二、労働争議の事例共有及び企業のコンプライアンス管理


事例の共有1

 顧氏は2021年3月1日に深センの某文化会社に入社して商品部門の精算担当者を務めており、双方が締結した労働契約の期間は2021年3月1日から2024年3月1日まで、試用期間は2021年3月1日から2021年6月1日まで、試用期間の給与は18,000元/月、正規採用後の給与は20,000元/月でした。2021年5月1日、顧氏は他社の人事担当者と面接し、その後、退職願を書き、文化会社はこれに同意して顧氏の給与を清算しました。2021年5月中旬、顧氏は仲裁委員会に対し、文化会社の人事が面接の際に仕事の能力が低く、職務を担当する能力がないと中傷し、自主的に退職願を書くよう要求し、これは文化会社による違法な労働契約の解除であり、それに対する賠償金を要求すると主張して労働仲裁を申し立てました。

文化会社は案件に関する資料を受け取った後、当弁護士チームに本案の処理を委託し、当弁護士チームは当該の資料を確認した後、顧氏が自ら退職願を書いており、また、退職の理由を「上司との折り合いが悪い」からであると書いてあることに気づきました。当弁護士チームが文化会社に確認したところ、顧氏は勤務期間中、製品情報を入力する際にしばしばミスを犯し、さらには期日通りに指導者の割り当てた合理的な業務を完了することができず、指導者の仕事の割り当てにも従わず、指導者が顧氏に問題があることを指摘しても、顧氏の態度は悪いまま、依然として何度も製品情報の入力ミスをしていました。このため、顧氏の指導者は文化会社の人事担当者にこの件を説明し、人事担当者と顧氏が話し合うよう求め、顧氏も自身の業務中に問題があったことを認め、また、指導者との折り合いが悪く、指導者に不満があることも表明し、退職願の中で説明した退職理由も事実に基づいて書かれたものでした。このため、当弁護士チームは顧氏が自らと上司の折り合いが悪いことを理由として自主的に退職しており、文化会社は違法な労働契約の解除はしておらず、さらに顧氏も文化会社が違法な労働契約の解除をしたことを証明する証拠を持っていないため、違法な労働契約の解除に対する賠償金を支払う必要はないと考えました。仲裁委員会も当方の主張を認め、顧氏の仲裁申し立てを却下し、当方は全面的に勝利しました。

【事例内の経験の総括】

 労働者は雇用者が労働契約を解除したと主張する場合、雇用者が労働契約を解除した事実について、証拠を挙げて証明する責任を負わなければいけません。本案において、当方は既に顧氏が自ら手書きした『従業員退職願』を提供して顧氏が自ら退職を申し出たことを証明し、また、退職理由も事実と一致していました。顧氏はこれに反論するに足る証拠を提出していないため、完全な民事行為能力を持つ成人として、『従業員退職願』の含意を理解し、また、相応の結果を負わなければいけません。このため、顧氏の文化会社に対する違法な労働契約の解除についての賠償金の請求は事実と法的根拠に欠けており、仲裁委員会による支持を得られませんでした。

【企業のコンプライアンス管理に関するご提案】

 注意すべき点として、本案において、顧氏は文化会社に『従業員退職願』を提出していますが、もし文化会社が採用条件に適合しないことを理由として辞職を要求したことを証明する証拠があった場合、文化会社は証拠を挙げて顧氏が採用条件に適合しなかったことを証明する必要があり、そうでない場合、証拠を挙げた証明ができなかったことによる不利な結果を負わなければいけません。実務においても、多くの企業が試用期間の従業員が採用条件に適合しなかったことを証明できなかったために敗訴しています。前述のような状況に陥ることを防ぐため、当弁護士チームは雇用者に以下の数点について注意喚起をいたします。

(1)具体的、合法的、合理的な採用条件の設定。雇用者は従業員の従事する職位について事前に明確な採用条件を決め、また、当該の条件は決して法律法規の規定に違反するものでなく、性別、人種、宗教等を理由とした雇用における差別をせず、具体的で明確であり、運用可能なものでなければいけません。

(2)従業員が雇用者の雇用条件を認識していることを証明する証拠の保存。一般的な状況において、採用条件は労働契約書の付属文書、入社登録表、就業規則または単独で採用条件を確認するための文書内に明記することができ、従業員が入社する際に署名することでこれを認識していることが確認できます。また、従業員が署名した書面による文書を保存しておくことで、仲裁または訴訟において、雇用者が従業員の署名によって確認済みの書面による文書を提供し、従業員が採用条件を認識していたことを証明することができます。

(3)従業員が採用条件に適合していないことを証明する完全な試用期間中の評価制度を持つこと。雇用者は具体的な評価制度及び証拠として保存してある評価結果を用いることで、従業員が採用条件に適合していないことを証明することができます。まず、評価制度は民主的な手順を経て設定して従業員に公示する必要があり、できれば評価制度を認めた従業員による署名入りの書面による文書を保存しておくことが望ましく、それから、評価結果についても従業員に確認の上、署名させます。合法的な手順と客観的で公正な結果を保つよう徹底します。運用面では、定期的(例えば毎週、毎月など)に従業員に対する試用期間の評価を行うことができます。

(4)労働契約を解除する手順が合法であること。雇用者が採用条件に適合しないことを理由として労働契約を解除する場合、必ず試用期間に行わなければならず、試用期間を過ぎた場合はこれを理由として労働契約を解除することはできません。もし雇用者が労働組合を持つ場合は、事前に契約を解除する理由を書面にて通知したものに受け取りの署名をさせ、それから具体的な契約解除の理由と契約解除の事実を従業員に通知し、受け取りの署名をさせます。通知する際の理由として、職務を担当する能力がなかったことではなく、試用期間中に採用条件に適合しなかったことを書かなければいけない点に特に注意が必要です。


事例の共有2

 谷氏は2019年7月に深センの某製造会社に入社し、双方が締結した労働契約書では1か月分の給与4,000元(月額固定給与制)と約定していました。2021年3月、谷氏は個人の都合により労働契約の解除を申し出、また、たとえ深セン市の最低賃金の基準に基づき、労働時間と給与の法定基準を確認していたとしても、製造会社は残業手当を満額支払っていないと考え、残業手当の差額を支払うよう求めました。製造会社は谷氏の給与は月額固定給与制であり、その1か月分の給与に既に残業手当も含まれていることを理由として谷氏に残業手当の差額を支払うことを拒否しました。谷氏は会社と話し合いを行いましたが成果がなかったため、当弁護士チームに仲裁委員会への仲裁の申し立てを委託しました。

当弁護士チームは委託を受けた後、谷氏の残業に関連する証拠の収集、谷氏の製造会社入社後からの残業状況の統計を行い、たとえ深セン市の最低賃金の基準に基づき谷氏の労働時間と給与の法定基準を確認し、これを計算基準として残業手当を算定していたとしても、約定した給与である4,000元を超えているため、製造会社は谷氏に残業手当の差額を支払わなければならないと考えました。審問中、製造会社は谷氏が残業していた事実は認めましたが、引き続き谷氏の給与は月額固定給与制であり、その1か月分の給与に既に残業手当が含まれていることを理由として谷氏への残業手当の差額の支払いを拒否すると主張しました。その主張は仲裁員会に認められず、最終的に仲裁委員会は当方の仲裁上の請求を支持し、製造会社が谷氏に残業手当の差額を支払うよう判断を下しました。

【事例内の経験の総括】

 『中華人民共和国労働法』第四十七条は「雇用者は当該の組織の生産・経営の特徴と経済性に基づき、法に従い自ら当該の組織の給与の分配方式と給与水準を確定する」、第四十八条は「国は最低賃金の保障制度を実行する」、『最低賃金規定』第三条は「本規定でいう最低賃金基準とは、労働者が法定労働時間または法に基づき締結した労働契約で約定した労働時間内に正常な労働を提供した前提の下、雇用者が法に基づき支払うべき最低限の労働報酬を指す」と規定しています。前述の条項から、雇用者は法に基づき自ら当該の組織の給与の分配方式と給与水準を確定し、労働者とこれに応じた約定をすることができますが、最低賃金保障、残業手当の基準に関して規定している法律に違反することはできないことがわかります。

本案において、谷氏の実際の労働時間に基づき換算すると、たとえ現地の最低賃金の基準に基づき谷氏の労働時間と給与の法定基準を確認し、これを計算基準として残業手当を算定していたとしても、約定した給与である4,000元を超えていることから、製造会社が谷氏の残業手当を満額支払っていないことは明らかであるため、仲裁委員会は法に基づき製造会社が谷氏に残業手当の差額を支払うよう判断を下しました。

【企業のコンプライアンス管理に関するご提案】

 月額固定給与制とは労働契約書内において基準となる労働時間の給与と残業手当をパッケージ化して約定する一種の給与分配方式を指し、一部の残業が多く、尚且つ労働時間が相対的に固定されている業界では比較的よく見られます。雇用者は法に基づき内部の給与分配制度を制定する自己決定権を持っていますが、内部の給与分配制度の制定と執行は必ず関連する法律の規定に適合していなければいけません。実務において、雇用者は月額固定給与制によって残業手当のコストを節約することはできますが、実際に運用するにあたり、以下の面に注意し、慎重に実施しなければいけません。

(1)雇用者は労働契約書、給与明細書等の書面による文書の中で明確に労働時間、給与基準及び月額固定給与制を実行することを約定しなければいけません。従業員に対し明確に月額固定給与制について告知し、また、従業員が月額固定給与制の実施に同意した証拠を保存して初めて月額固定給与制を実施することができます。

(2)給与の構成に残業手当を含むことを明確にし、労働者に署名またはメール等その他の方式を通して確認するよう要求します。

(3)厳格に当市の最低賃金を下回らない基準に基づき労働者に法定基準の労働時間の給与を支払い、同時に国の残業手当に関連する法律の規定に基づき満額の残業手当を支払います。

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