中国の最新法令情報や車衛東弁護士チームが担当した案件を通して企業のコンプライアンス管理等について解説するニュースレターの日本語版をお届けいたします。
一、最新法律情報
1. 2021年6月29日、深セン市人力資源社会保障局は『労務派遣管理の指導の更なる規範化に関する意見』という通知を配布し、深圳市の実情を考慮した上で関連する要求を提示しました。
中国人弁護士による解説
深セン市人力資源社会保障局の提示した要求によれば、関連する労務派遣事業者と雇用者は以下の数点について注意が必要です。
1.1労務派遣事業者は労務派遣雇用の実名制管理を徹底し、リアルタイムで広東省労務派遣管理情報システムに被派遣労働者の情報を登録し、新たな人員の変動状況を適時更新し、労務派遣雇用データを適正化すること。雇用者が被派遣労働者を使用する際は、被派遣労働者の合法的な権益を適切に守らなければいけません。
1.2今後、労務派遣で就労する人員への研修・評価制度の確立、就労する人員に関する労務派遣の法律法規政策テストの実施、労務派遣事業者のランク分けによる管理・査定システムの整備、労務派遣に関する優勝劣敗システムの確立が行われる可能性があります。
このため、労務派遣で就労する人員は専任管理職としての素養と専門性を向上させ、労務派遣事業者の責任者、管理者は積極的に法律法規の研修に参加して法治に関する知識を向上させるよう注意を払うことをお勧めいたします。労務派遣事業者は信義誠実に基づいたサービスを提供し、『労務派遣の信義誠実に基づいたサービス承諾書』への署名の要求に応じ、法令を遵守した経営と信義誠実に基づいたサービスを徹底し、業界のサービス基準を遵守し、市場のサービス価格をつり上げず、雇用者の合法的な権益を守り、法律とコンプライアンス遵守、信義誠実に基づいたサービスに関する状況をこまめに社会に向けて公表し、意識的に社会の監督を受け入れ、健全で秩序ある市場環境を作り出すことに注意が必要です。
1.3労務派遣事業者と雇用者は違法な派遣、同一労働に対する異なる賃金、比率を超過した雇用、“三性”(即ち臨時性、補助性または代替性のある職位においてのみ労務派遣雇用ができる)規定への違反、“外部委託と偽り、実質的には派遣である”等の違法行為を根絶するよう注意しなければいけません。
弁護士による注意喚起:実務において、違法な派遣、同一労働に対する異なる賃金、比率を超過した雇用、“三性”規定への違反は非常によく見られるケースであり、ひいては同一の派遣会社の異なる雇用者への派遣従業員の見積価格に200元以上の差額があるケースまで存在します。このため、当職は雇用者が法に基づき、派遣会社の労務派遣経営許可証及び市場価格に対するつり上げ行為の有無、実際に派遣されて来ている従業員が違法な派遣のケースに該当しているかどうかを確認し、合法的な手段を通じて段階的に同一労働に対する異なる賃金、比率を超過した雇用、“三性”規定への違反等の違法行為を防止し、これにより合法的な雇用を実現することをお勧めいたします。
2.2021年7月19日、深セン市人力資源社会保障局は『労務派遣管理の指導の更なる規範化に関する意見』(以下略称『条例修正案』といいます)を公布して公開で意見を募集しており、意見募集の締切日は2021年8月2日です。
中国人弁護士による解説
今回の条例の修正には重大な意義があり、調和の取れた穏やかな労働関係を促進し、深セン市の経済と社会の安定や健全な発展を保障します。主な内容は以下の通りです。
2.1通常の勤務時間の給与に関する認定規則を整備します。今回の修正では元の条例に「通常の勤務時間の給与を約定していない、または約定が不明瞭な場合、当市の前年度の従業員の月平均給与を通常の勤務時間の給与とする。実際に支払う給与が当市の前年度の従業員の月平均給与よりも高い場合、実際に支払う給与を従業員と約定した通常の勤務時間の給与と見なす」という内容が追加されました。この修正は双方が約定していない、または約定が不明瞭な給与の認定基準を明確にし、従業員と企業の間でこれ等を原因として発生する紛争を減らすことができ、調和のとれた労働関係の構築に貢献します。
当弁護士チームによる注意喚起:2021年6月7日に深セン市統計局が発表した『2020年深セン市都市就業者年平均給与データ官報』によれば、2020年度の深セン市の就業中従業員の月平均給与は11620元で、もし『条例修正案』の採択、発効後、雇用者と従業員の間で通常の勤務時間の給与を約定していない、または約定が不明瞭であることにより紛争が発生し、且つ従業員の実質賃金が前述の金額よりも低かった場合、雇用者はより多くの損失を負わなければならないため、雇用者は労働契約を締結する際、従業員の給与額を明確に約定し、将来的に不必要な損失が生じるのを防ぐようお勧めいたします。
2.2最初の給与支払日に関する規則を明確にします。今回の修正では元の条例に「給与の支払周期が1か月の場合、雇用日から約定した給与支払日までが1か月に満たない給与については、雇用者が最初の給与支払日に日割り計算して支払うことができ、また、次の給与支払日に合算して支給することもでき、具体的な支払方法は雇用者と従業員が労働契約書内で約定すること。」という内容が追加されました。この修正は最初の給与支払日の時間に関する紛争を減らす効果があると考えられ、企業は従業員を募集する際、労働契約書内で従業員の最初の給与支払日について明確に約定するよう注意する必要があります。
2.3給与支払表の保存期間が2年間から3年間に延長され、電子給与明細書の法的効力の確認に関する規定が追加されます。これにより企業の関連部門は給与支払表の保存期間に注意し、後日、従業員に直接電子給与明細書を送ることができ、紙による給与明細を提供する必要がない状態にするようお勧めいたします。
2.4操業停止、生産停止している状況において「給与支払の1周期」の開始日を雇用者が操業停止、生産停止した日とすることを明確にします。従業員と雇用者の間で操業停止、生産停止期間の給与支払に関する紛争を減らし、従業員の権益を保障し、労働関係の安定を維持することに役立ちます。
現時点では、『条例修正案』は正式には採択、公布されていないため、当弁護士チームは引き続き『条例修正案』の最終的な発効状況を注視し、今後のニュースレター内でお伝えします。引き続きご注目ください。
3.2021年7月29日、広東省政府は『広東省における従業員の出産保険に関する規定』(省人民政府令第287号、以下略称“『規定』”といいます)を公布し、2021年10月1日から施行し、広東省人民政府が2014年11月6日に公布した『広東省における従業員の出産保険に関する規定』(省人民政府令第203号、以下略称“元『規定』”といいます)は同時に廃止されます。
中国人弁護士による解説
『規定』の主な内容は以下の通りです。
3.1女性従業員が妊娠終了した場合の産休日数が変わりました。『規定』は、女性従業員が妊娠4か月未満で妊娠終了した場合、医療機関の意見に基づき、計15日間から30日間、妊娠4か月以上7か月以下で妊娠終了した場合、計42日間、妊娠満7か月で妊娠終了した場合、計75日間の産休日数を明確にしました。
元『規定』内の妊娠4か月未満での流産の場合15日間の産休取得、妊娠満4か月での流産の場合42日間の産休と比較して、『規定』は医療機関が女性従業員の妊娠4か月未満での妊娠終了時に15日間を超える産休が必要であるという意見を発行した場合、女性従業員が妊娠満7か月で妊娠終了した場合、女性従業員の妊娠終了時の産休を延長するものとしており、このため、企業は女性従業員が前述の状況に該当する場合、法に基づき女性従業委に状況に応じた日数の産休を与えるよう注意しなければいけません。
3.2出産保険料を納付する必要のない人員及びその雇用者を明確にしました。『規定』は、従業員のいない個人事業主、職場で従業員基本医療保険に加入していないパートタイム従業員及びその他非正規雇用の労働者、失業保険金の受け取り期間中の失業者、業務上の理由により後遺症や障害が残り、1級から4級までの障碍者であると鑑定されて障碍者退職手続きを行った従業員、法定定年年齢に達した時点で規定の従業員医療保険の納付年数に満たない従業員は出産保険料を納付する必要はないことを明確にしています。
3.3出産保険料と従業員基本医療保険料の一括納付について。『規定』は、出産保険料と従業員基本医療保険料の一括納付について、税務部門が統一して徴収管理することを明確にしています。雇用者の納付基数はその組織の従業員基本医療保険の納付基数で、納付比率は元来加入している出産保険と従業員基本医療保険の納付比率の和です。
3.4従業員の出産医療費の清算に関連する内容が変更されました。
3.4.1省を跨いだ異なる地域での出産医療費の直接精算。『規定』は、省の医療保障行政部門は国の関連規定に基づき、医療保険の支払方法の改革に出産医療費を含め、省を跨いだ異なる地域での出産医療費の直接精算を推進するよう指摘しています。
3.4.2出産医療費の精算の申請期間を1年から3年に延長しました。『規定』は、従業員が出産医療費を直接精算できない場合、その出産医療費をまず従業員個人が支払って出産、妊娠終了または計画出産手術を行った日から3年以内に、保険加入地の医療保障処理機構に清算または一括での出産医療費助成金の支払いを申請するよう示しています。
4.2021年7月6日、深セン市人民代表大会常務委員会は『深セン経済特区データ条例』(以下略称『条例』といいます)を公布し、2022年1月1日から発効します。
中国人弁護士による解説
『条例』の内容は個人データ、公共データ、データ要素市場、データの安全等を網羅しており、国内のデータ分野における最初の基礎的、総合的な法律の制定です。『条例』は個人データ保護の面について、主に以下の通り規定しています。
4.1個人データの処理に関する基本原則。データ処理者が個人データを処理する際は、目的を明確且つ適切に、処理方法を合法且つ正当にするよう注意しなければならず、目的に応じて必要最低限の範囲で、個人の権益への影響が最も小さい方法を取るという基本原則と条件によって処理し、自然人と個人のデータに関連するあらゆる合法的権益を十分に尊重及び保障しなければいけません。
4.2「告知―同意」を前提とした個人データの処理に関する規則を確立しました。これについて、データ処理者は以下の3つの面に注意しなければいけません。
4.2.1個人データを処理するにあたっては告知義務があり、処理を行う前に自然人に対しデータ処理者の基本情報、処理を行う個人データの種類、範囲、目的と方法、個人データを保存する期間、存在する可能性のある安全面のリスク、採用する安全保護措置、及び自然人が法に基づき有している権利、権利を行使知る方法等の事柄を告知しなければいけません。
4.2.2個人データを処理するにあたり自然人の同意を得た上で、その同意の範囲内でその個人データを処理しなければならず、誤解を招くような方法、欺瞞、脅迫等、自然人の本来の意志に反するような方法で同意を得たり、同意を得た規則に対して例外的な状況で規定を作ったりしてはいけません。
4.2.3自然人が同意を撤回する状況に対し、データ処理者が同意を撤回するための手段を提供しなければならず、同意の撤回に対して不適切な制限を行ったり、不適切な条件を設けたりしてはならないことを規定しています。
4.3生体認証データの処理に関する適切な制限。『条例』は生体認証データを処理する際、当該の生体認証データが個人データの処理を行う目的に必要であり、且つその他の生体認証データでは代替できない状況を除き、同時に生体認証データ以外での処理を代替案として提供しなければならず、且つ特定の目的により生体認証データを処理する場合、自然人の明確な同意なしに当該の生体認証データをその他の目的に使用してはいけません。
現在、「顔認証」「指紋認証」「音声によるロック解除」「虹彩認証」等の生体認証は生活の中で比較的よく見かけるものとなっており、もしこの生体認証データが漏洩または悪用された場合、深刻な被害が生じるため、この規定は生体認証技術の応用を拡大させると同時に、生体認証データの悪用を防止することもできます。
4.4ペルソナとパーソナライズレコメンドのアプリのルール化。『条例』は以下について規定しています。データ処理者が製品またはサービスの品質向上の目的により、自然人にペルソナを行う場合、利用者にペルソナの主な規則と用途を明示しなければいけません。自然人はデータ処理者が上述のペルソナとペルソナに基づくパーソナライズレコメンドを行うことを拒絶する権利を有しており、データ処理者はその拒絶のための手段を提供しなければいけません。
4.5未成年者の個人データ保護の強化。『条例』第三十条は、データ処理者がペルソナにより14歳未満の未成年に対しパーソナライズレコメンドの製品やサービスを提供してはならないと明確に規定しています。但し、合法的権益を守るため、保護者の明確な同意を得た場合は除外します。
当弁護士チームによる注意喚起:企業はデータを処理する際、個人データの処理の基本原則及び規則、個人に関連するデータ情報を尊重及び保障することに注意しなければいけません。『条例』の規定に違反して個人データを処理した場合、個人情報保護に関連する法律、法規の規定に基づき処罰されます。
5.2021年6月18日、深セン市科技創新委員会、国家税務総局深セン市税務局は『深セン市技術契約に係る税制優遇事項に関する管理弁法』(以下略称『弁法』といいます)の発行に関する通知を公布し、2021年7月1日から施行します。
中国人弁護士による解説
『弁法』のポイントは以下の通りです。
5.1適用対象:深セン市及び深汕特別合作区において法に基づき登記し納税している法人とその他の組織、深セン市及び深汕特別合作区において法に基づき納税している個人で、技術契約の約定を履行し、また、技術開発、譲渡、許可業務及びそれに関連する技術コンサルティング、サービス業務に従事することで技術的収入を得ている場合、税制優遇制度に関する申請をすることができます。
5.2税制優遇事項に含まれる範囲:技術契約による技術的収入への増値税の免除、技術譲渡による所得への企業所得税の減免、企業の研究開発費の税引前追加控除、科学技術関係要員が法に基づき取得した職務上の科学技術に関する成果を奨励金として現金化した場合の個人所得税の減免及び法律の規定するその他税収優遇事項。
5.3企業が税収優遇制度に関する申請をする場合、以下の事項について注意しなければいけません。
5.3.1企業は書面による技術契約を締結し、技術契約書にその法定代表者または権限を委譲した人物が契約書に署名または捺印をし、更に法人の公印または契約書の専用印を捺印するよう注意しなければいけません。技術契約書の書式については参考として科学技術部の監修したひな形を適用することができます。
5.3.2企業が技術契約に関する税制優遇制度に関する手続きを行う際、まず技術契約の認定登記を完了させ、それから納税申告の際に税制優遇制度を受けられるよう申請し、また、自身の税制優遇制度に関する需要に応じて市の税務主管部門に対し市の科技行政主管部門の発行した対応する登記証明を提出しなければいけません。このほか、企業は市の税務主管部門による検査に備えるため、技術契約の関連資料を集めて保管するよう注意する必要があります。
5.3.2技術契約の認定登記については「地域毎の一括登記」制度を実施しており、一般的な状況において、技術取引の売り手が技術契約の認定登記の申請を提出しなければいけません。もし渉外契約であり、且つ技術取引の売り手が国外にいる場合は、技術取引の買い手が申請を提出することができます。
5.3.3技術契約の認定登記の申請手続きを行う際、書面による形式または深セン市技術移行促進センター業務システム(http://szjssc.org.cn)を通じてオンラインで市の科技行政主管部門に完全な技術契約書及び関連資料、契約において購入した設備等の非技術的な費用の詳細リストを提出しなければいけません。
5.3.4技術開発、譲渡(許可)に関連する技術コンサルティング、サービスについて増値税の免除手続きを行う場合、企業はオリジナルの技術取引の売り手でなければならず、且つ当該の部分の技術コンサルティングサービスの価額と技術譲渡(許可)または技術開発の価額について同一の領収書で発行しなければいけません。
二、労働争議の事例共有及び企業のコンプライアンス管理
事例の共有1
2018年11月、鄭氏は深センの某製造業の会社に入社して販売の業務に従事し、契約期間2018年9月から2021年9月までの労働契約を締結しました。会社は鄭氏の勤務期間中、法律の規定通りに社会保険料を納付していませんでした。2020年7月末、鄭氏と会社は協議による合意に至り労働関係を解除し、会社は鄭氏に対して労働契約を解除したことを証明する書面を発行しました。その後、双方は『協議による労働関係解除に係る合意書』を締結し、再度双方が協議によって労働関係を解除することを話し合い、鄭氏が2020年8月31日までに離職手続きを行い、会社が労働契約法の関連規定に基づき鄭氏に労働契約を解除したことに対する経済補償金を支払うことを約定し、会社は双方が『協議による労働関係解除に係る合意書』を締結した翌日に鄭氏に対して補償金を支払いました。2020年8月20日、鄭氏の健康診断の際に妊娠が発覚し、会社に『協議による労働関係解除に係る合意書』の取り消しと、労働関係の回復並びに元の労働契約の履行の継続を要求しましたが、会社が同意しなかったことから、鄭氏は労働争議の仲裁申請を行い、会社は直ちに当弁護士チームに本案の代理を委託しました。
当職は本案に関する資料を精読、分析した後、確かに鄭氏は会社との協議による合意の上で労働関係を解除した後、離職手続きを行う前に妊娠していることに気づきましたが、会社側に欺瞞、脅迫または弱みにつけ込んで脅して「協議による労働関係の解除」に同意させたという状況は存在しないため、鄭氏には労働関係の回復を要求する権利はないと考えました。本案は仲裁、一審、二審を経て、全て当方の主張が支持され、鄭氏の申し立ては却下されました。
【事例内の経験の総括】
『女性従業員の労働保護に関する特別規定』第五条の規定によれば、雇用者は女性従業員の妊娠、出産、育児を理由とした給与の減額、解雇、労働または雇用契約の解除をしてはいけません。『中華人民共和国労働契約法』第四十二条は第四十条、第四十一条の規定によって労働契約を解除することができないいくつかの状況について明確に規定しており、そこには女性従業員の妊娠期間、周産期、授乳期に雇用者が一方的に労働契約を解除できないことも含まれています。
上述の法律による規定は総じて雇用者が「三期(妊娠期間、周産期、授乳期)」の女性従業員を一方的に解雇することのできない法的根拠だと考えられています。注意すべきは、『中華人民共和国労働契約法』第三十六条は雇用者と従業員が協議の上で合意すれば、労働契約を解除できることを規定している点です。この条文からも、法律によって無効であることが定められている状況を除き、従業員と雇用者が協議を通して労働契約の解除について合意に至った場合はそれを有効としなければならず、つまり、法律では決して「三期(妊娠期間、周産期、授乳期)」の女性従業員と雇用者の協議により合意に至った上での労働契約の解除を禁止していないことが見て取れます。
本案において、会社と鄭氏は協議による合意の上で労働契約を解除しており、会社による一方的な労働契約の解除ではなく、更に鄭氏も自らが協議による労働契約の解除に同意する意思表示をした際に会社からの欺瞞、脅迫または弱みにつけ込んだ脅しを受けたことによって同意したという証明はできませんでした。このため、鄭氏が一連の出来事の後に妊娠に気づいても、これによって会社と協議による合意の上で労働契約を解除した事実を変えることはできません。
このほか、鄭氏と会社の協議による合意の上での労働関係の解除は法律、行政法規の強行規定に違反しておらず、鄭氏の労働契約の解除の性質に対する理解にも誤解はなく、且つ会社は既に労働契約法の関連規定に基づき協議による労働関係解除への経済補償金を支払っているため、鄭氏の労働契約解除に対する重大な誤解及び協議が明らかに公平さに欠いていたという状況も存在しません。このため、鄭氏に労働関係の回復を要求する権利はなく、会社も元の労働契約の履行を継続する必要はありません。
【企業のコンプライアンス管理に関するご提案】
当弁護士チームは雇用者と従業員が協議により労働契約を解除する際、以下の事柄にご注意いただくよう注意喚起いたします。
1.従業員が後になって双方が十分な協議を行った事実を否定したり、協議の際に欺瞞、脅迫、重大な誤解等があったと主張したりすることを避けるため、雇用者と従業員が協議書に署名をする際、従業員が十分に協議書の条項を閲読する時間を与え、自発的に従業員に対し協議書の条項に疑問や理解できない部分があった場合は質問するよう告知し、十分な説明をしなければいけません。同時に、協議書内で双方が協議書にサインをする際、会社が既に従業員に協議書の条項を閲読する十分な時間及び関連する疑問に回答する時間を与え、従業員が既に十分に協議書の内容及び関連する法律法規を理解したことを確認済みであると明記するようお勧めいたします。
2.協議書内で、双方共に十分に協議書の約定する内容に関連する法律法規を承知しており、本協議書の約定する内容を十分に理解しており、双方のうちどちらも如何なる理由があっても協議書の無効または取り消しを主張しないことを明記するようお勧めいたします。
3.協議書内で、協議書の効力発生後、双方の間の紛争は既に全て解決済みであり、その他の如何なる紛争もないことを明記するようお勧めいたします。
事例の共有2
穆氏は2019年1月から深センの某社にて雇用されて販売を担当しており、労働契約書内において、従業員が発注を受けた後、無断でその発注を他社で処理し、自社に取り次がなかった場合、成約額の50%の賠償責任を追及すると約定していました。2020年6月、穆氏は会社に離職を申し出、会社支給の携帯電話を返却しました。しかしその直後、会社は穆氏が無断で発注を他社にて処理していたことを理由として、労働仲裁委員会に仲裁を提起し、穆氏が前述の行動により会社に与えた30万元以上の損害を賠償するよう求めました。
穆氏は労働仲裁を提起された後、当弁護士チームに本案の代理を委託し、当弁護士チームは本案に関する資料を確認した結果、会社が穆氏の業務用の携帯電話の通話の録音を取り出し、穆氏に発注を他社にて処理する行為があったこと証明する証拠としていることに気づきました。当弁護士チームは真剣に通話の録音を確認した後、通話の録音音声の中に確かに穆氏と他社が販売業務に関して相談している内容があり、発注を他社で処理している可能性を示していることに気づきました。これに対し、穆氏は当時、友人と通常通りの会話をしていただけに過ぎず、会社の具体的なプロジェクトについて話していたわけではないと説明しました。
当弁護士チームは本案に関する全ての資料を確認した後、会社が一部を切り取った録音内容には具体的なプロジェクト、実際に発生した時間、金額、人物は含まれておらず、単なる日常生活における友人との通常通りの会話に過ぎず、決して会社の商業的利益に何らかの損害を与えるものではなく、また、会社が穆氏の電話に対し遠隔での監視を行い、それを事前に告知していなかったことは穆氏のプライバシー権を著しく侵害しているため、当該の録音は本案に関する事実を証明する証拠として認定することはできないと考えました。労働仲裁委員会は審理の後、最終的に当方の主張を支持し、会社の仲裁請求を却下するよう裁決し、会社も訴訟を提起しなかったため、現在仲裁の裁決書は既に有効となっています。
【事例内の経験の総括】
会社は労働仲裁の審問の際、当該の携帯電話を支給したのは穆氏が業務において使用するためであることから、通話に関する情報を取得する権利を有しており、そのため会社は穆氏のプライバシーを侵害してはおらず、その録音は穆氏に発注を他社で処理した行為が存在することを証明する証拠であり、会社が労働契約の約定した比率に基づき穆氏に経済的損失の賠償を求めるのは合法で証拠のあるものだと主張していました。
穆氏は従業員として、就業規則と職業倫理を遵守しなければならず、もし確かに穆氏に発注を他社で処理していた行為が存在することを証明する証拠があった場合、この行為は明らかに重大な就業規則と職業倫理に対する違反であり、穆氏は確かに労働契約の約定に基づき会社への賠償責任として成約額の40%を負担しなければいけません。但し、注意しなければならないのは、法律に別途規定されているか、または権利者の明確な同意がある場合を除き、如何なる組織と個人も他人のプライベートに対する盗聴、他人のプライバシーを処理する等の行為を実施してはならず、会社が従業員の業務上の職責の実行について管理監督することについては非難するほどのことではありませんが、合法且つ適切な限度内で権利を行使しなければいけません。
本案において、会社は確かに業務用の携帯の所有権を有していますが、当該の携帯電話の通話に対する録音データの復元を行っていることを穆氏に告知した、または既に復元した通話に関する情報につい穆氏から明確な同意を得たことを証明できていないため、裁判所は当該の証拠の合法性を認めませんでした。このほか、会社はその他に穆氏に確かに発注を他社で処理する行為があり、会社に重大な損害を与えたことを証明する証拠を提供していなかったため、会社は立証できなかったことによる不利な結果を負うことになりました。
【企業のコンプライアンス管理に関するご提案】
これに対し、当弁護士チームは雇用者に以下の2点について注意喚起いたします。
1.従業員の業務用携帯の通話内容も従業員のプライバシーに属し、雇用者は従業員の許可を得ずにみだりに従業員のプライバシー権を違法に知ること干渉、収集、利用、公開等の方法で侵害してはいけません。
実務において、会社が従業員に業務用の携帯電話を支給するという現象は非常によく見られるものであり、会社は確かに従業員の業務用携帯電話の所有権を有しています。但し、従業員が当該の業務用携帯を利用し、業務、生活、人間関係において行う通話も個人のプライバシーに属します。『中華人民共和国民法典』第千三十二条の規定によれば、如何なる組織または個人も偵察、干渉、漏洩、公開等の方法で従業員のプライバシー権を侵害してはいけません。
2.雇用者は合法且つ適切な限度内で従業員に対する監督管理権を行使しなければいけません。
雇用者が従業員を雇用し、労働契約を締結する際、確かに従業員を組織、指導、監督、管理する権利を有し、従業員は従うべきですが、必ず合法であることを前提としなければいけません。雇用者は双方が労働契約を締結していること、従業員に給与を支払っていることを理由として法律が従業員に与えている人身権と人格権を剥奪してはならず、従業員は変わらず国民として全ての基本的な権利を有しています。
このため、当弁護士チームは雇用者が合法且つ適切な範囲内で従業員に対する管理と監督を行い、管理権を行使する際は、慎重に義務を果たし、管理を合法的で必要性と正当性を持つものであるようにし、従業員のプライバシー権を最大限保護し、管理、監督権を悪用することを避けるようお勧めいたします。
Comments